小田原市において生活保護の担当職員が、『保護なめんな』ジャンパー事件を起こして報道されましたよね?
『生活保護受給者の人権・プライバシーを踏みにじった。』
と世間から大きな避難を浴びています。
小田原市で起こったこの事件は生活保護受給者の中で、一握りの不心得者による『不正受給』が起因しているんです。
生活保護の制度は、働けない家庭にとって社会保障の中での、最後の砦と言われています。
その大事な最後の砦で、守られるべき家庭の人達が『不正受給』により、守られない状況に陥るとも言われています。
小田原市の『保護なめんな』ジャンパー事件を通じて『生活保護』・『不正受給』の実態を、今一度再確認していきましょう!
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『保護なめんな』ジャンパー事件ってどんな事件?

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『保護なめんな』ジャンパー事件。
報道されて、世間の大きな関心を引きましたね。
まずは、もう一度事件についてのおさらいをしておきましょう。
事件の概要
『小田原市の生活保護の担当職員が、ローマ字で『保護なめんなとプリントしたジャンパーを着用したまま受給者世帯を訪問していた。』
- 当時の係長が、職員の連帯感を高揚させるために問題になったジャンパーを製作。
- ケースワーカーら64人が自費で購入した。
- 現在は在職中の28人が所有している。
ジャンパーを着用するに至った背景
『2007年7月生活保護費の支給を打ち切られた男性受給者が、職員3人を杖やカッターナイフで負傷させた。』
この事件が引き金になり、職員の連帯感を高揚させるためにジャンパーを製作・着用させるに至った。
ジャンパーにプリントされていたメッセージ
- 黒色のジャンパーの左胸に『保護なめんな』のローマ字。
- 『悪』の字に×印を重ねたエンブレム。
- 背面に『SHAT』(生活・保護・悪を撲滅する・チーム)の文字。
- 下記の意味の英文も背面にプリント。
- 『私たちは正義だ』・『不正受給をし 市民を欺くのであれば 私たちはあえて言おう 彼らはカスだと』
『悪』のマークは不正受給の悪は許さないため。
『なめんな』は市役所内部に向けて頑張っていると訴えるため。
当時の係長は職員の自尊心を高揚させて、疲労感や閉塞感を打破するための表現だったと釈明しています。
事件の結末
- 小田原市は不適切な表現と認め、福祉健康部長以下7人を厳重注意とした。
- 小田原市のホームページの生活保護欄も修正するに至った。
会見した日比谷正人部長は、市民に不快な思いをさせたと謝罪しました。
また加藤憲一市長は今後、市民に誤解を与えないように指導を徹底するとコメントしました。
併せて、市のホームページの生活保護欄も修正しました。
ホームページの修正内容
修正するに至った内容:
- 生活保護よりも民法上の扶養義務の方が優先される。
- 働く能力のある方は、その能力を最大限活用していただく。
上記の、内容の修正に至った判断:
小田原市は
- 扶養義務が優先する記載は、好ましくないと指摘されたこと。
- 保護を受けさせないという誤解を与えると判断した。
ホームページの生活保護欄の内容について市は、『自分の力で生活していけるよう手助けする』のが生活保護制度の趣旨であると説明しています。
市は、保護の申請を控えないように呼びかけています。
例え、どんな事情があろうとも行政が、生活保護受給者の人権・プライバシーを踏みにじる行為は断じて許されない事なんです。
受給者を支援するソーシャルワークの価値観に、反するだけでなく支援の現場で、受給者を良心的に真摯に支えている担当職員・ケースワーカーを冒涜する事でと同じでしょう。
今回の福祉行政による大失態がなぜ起こったのか?
今回の事は決して、小田原市だけの組織的な失態とは決して言えないでしょう。
わが日本での生活保護・不正受給の現状は、一体どうなっているのでしょうか?
日本における生活保護の現状

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この『生活保護なめんなジャンパー』問題は、報道を通じての、一般の人達の受取り方として
- 『なんて非常識な市役所なんだ!』
- 『人権侵害も甚だしい!』
といった意見が多いと思います。
しかし、日本での生活保護の支援現場の実情と社会福祉法の間には相当の差があるんです。
『生活保護』の4原則
厚労省によると、生活保護制度は生活保護法第1条により資産や能力などを活用しても生活に困窮する人に対して
- 困窮の程度に応じて必要な保護を行う。
- 健康で文化的な最低限度の生活を保障する。
- そして、その自立を助長する制度。
上記のように、定められています。
また、生活保護制度を支える理念は憲法第25条にもあります。
『すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について社会福祉・社会保障び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。』
上記の生存権の理念に基づいて、制定されたのが『生活保護法』なんです!
生活保護法には、4つの原則があります。
生活保護法の4原則:
1:無差別平等の原則:
法の下の平等(日本国憲法第14条)に基づき、生活保護は、すべての国民に無差別平等に適用される。
生活困窮に陥った理由や過去の生活歴や職歴は問わない(生活保護法第2条)。
2:補足性の原則:
生活保護は、資産(預貯金・生命保険・不動産)・能力(稼働能力)援助や扶助を活用しても
最低生活の維持が不可能な人に対して適用される(生活保護法第4条)。
3:申請保護の原則:
生活保護は、
要保護者本人・扶養義務者・同居の親族の申請によって開始され
急病人などの申請が困難な人は、職権で保護される(生活保護法第7条)。
4:世帯単位の原則:
生活保護は、世帯単位の生活能力などを判定して決定する(生活保護法第10条)。
このような理念により、被保護者(受給者)の権利・義務が守られてます。
受給者は、正当な理由がない限り決定された保護を変更されません。
また、受給された保護金の課税や差押えを受けることもありません。
ただし、保護を受ける権利を他人に譲り渡せない。
その反面、以下のような義務も生じます。
- 能力に応じて勤労に励む事。
- 支出の節約を図り、生活の維持・向上に努めなければならない。
- 収入・支出の変動、居住地・世帯構成の変更があれば、速やかに届け出る事。
- 行政の調査・指導・指示に従わなければならない。
- 生活費に使える資力(年金など)があった場合は、定められた金額を返還しなければならない。
また、2014年の生活保護法の改正ではケースワーカーが必要と認めた場合、下記のような義務も発生します。
- 受給者は、家計簿と領収書を提出する義務も追加。
しかし、この4原則に従って受給者を守るためには行政の担当職員・ケースワーカーに掛かる負担が、大きくなっているのが現実なんです。
実際に、激務や業務の煩雑さによるストレスが非常に大きいんです。
生活保護の担当職員・ケースワーカー側の実情
社会福祉法ではケースワーカーの配置は、受給者80世帯当たり1人を標準としています。
現実は、1人が担当する世帯数は標準よりも多いんです。
都心部においては、1人/120人という自治体もあります。
その為に現場のケースワーカーが、疲弊していることも問題の背景にあるでしょう。
報道された小田原市の場合は、必要な標準担当者数:29人に対して、現実は25人となっていたんです!
そして、それに加えて生活保護を受ける受給者数が、倍増してきているんです!
増え続けている生活保護受給者数!
実は、各自治体の負担は年々増えているのが現状なんです。
問題になった小田原市の.場合
- 2014年度一般会計予算規模が、638億円に対して生活保護費は55億45万円。
- 2002年の生活保護費28億9,243万円に比べ、2014年度に至っては26億802万円も増加。
- 市民1世帯当たりの生活保護費の負担額は、なんと年間6万5,398円になる。
小田原市の予算のじつに1割近くが、生活保護に当てられている現状です!
しかも、生活保護費自体も倍増しているんです!
この問題は、小田原市に限らず全国の自治体が、一様に抱えている問題と言えるんです。
各都道府県の状況(実例)
- 大阪市(大阪府):2002年から2014年までの間に、1,094億4,791万円も増加。
- 横浜市(神奈川県):2002年から2014年までの間に、568億9,087万円増加。
- 札幌市(北海道):2002年から2014年までの間に、539億5,634万円増加。
どの自治体も、今、切実な財政状況な状況です。
自治体によっては、年間の自治体予算の約1/4を生活保護が占めている所もあるんです!
この状況の中で、各都道府県の担当職員・ケースワーカーの激務が、さらに増しているのが現状です。
担当職員・ケースワーカーの激務

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受給者支援の司令塔となるべき生活保護の担当職員やケースワーカーの業務は、非常に煩雑です。
なぜなら受給者は、さまざまなハンディや障害を抱えているからなんです。
生活保護は、年齢・性別・健康状態・世帯の生活状況によって以下の8種類に分かれます。
生活保護の分類
- 公費負担医療を行う医療扶助。
- 衣食など日常生活の需要を満たす生活扶助。
- 児童が義務教育を受ける教育扶助。
- 家賃などを補填する住宅扶助。
- 要介護・要支援者に行う介護扶助。
- 出産時に行う出産扶助。
- 生業に必要な資金などを給付する生業扶助。
- 葬儀時に行う葬祭扶助。
見てわかるように、生活全般すべてにおいて多岐にわたって保護をしなければならないんです。
今、日本において生活保護を受けている受給者数は下記の通りです。
- 受給者世帯は全世帯数の約3%
- 受給者は全人口の約1.7%
今、担当職員・ケースワーカーは、決して充分とは言えない人数で全国併せて21,000,000人の生活を多岐にわたって保護しなければならないんです。
生活保護家庭の現状は、通常の介護サービスでは足らない現状もあります。
生活保護家庭の実情
- 生活保護世帯の約半分を占める高齢世帯は、医療機関との連携や介護サービスの利用支援が必要。
- 約3割の傷病・障害世帯は、医療機関との連携や障害福祉サービス機関との調整が求められる。
- 約6~8%の母子世帯は、子どもへの総合的な支援も必要。
- 16~18%の働ける年齢層は、就労支援も懇切丁寧に行わなければならない。
担当職員やケースワーカーは、通常の金銭の給付業務~各関係機関への調整までの包括的な重責を担わされているんです。
受給者家庭の生殺与奪の権利を握らされていると言えます。
これらの1人1人への対応も大変ですよね。
その包括的な対応を、1人当たり80世帯~120世帯も担当しているんです!
しかも、さらにその上にケースワーカーには、半年に一度の訪問が社会福祉法で義務づけられています。
ここまで来ると、ケースワーカーの仕事は世に言う3Kの職場になるのかも知れません。
当然、今、ケースワーカーは不足しています。
ケースワーカーは、社会福祉法に基づく社会福祉主事の資格が必須です。
しかし、現在従事している人の約26%が未取得です。
不足している人員を、他からの応援に頼っている状況とも思えますね。
こんなにも、激務にも耐えて頑張ってくれているケースワーカーの努力には頭が下がる思いです。
しかし、もうひとつ問題があるんです。
それは、受給者家庭側の問題なんです。
不正受給の実態は?不正受給が招いている悪影響!

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生活保護部署においてもう一つ大きな重荷になっているのが、『不正受給』の問題です。
『不正受給』については、世間では様々な噂が絶えないのも現実です。
不正受給の実態
『不正受給とは、福祉事務所への収入の申告や、資産の有無などの虚偽の申告をする事』です。
悪質な場合は、詐欺罪などに問われて、不正に受給した金額は返還する事になります。
総務省『生活保護に関する実態調査』において2011年度の不正受給の総額は生活保護費約3兆7000億円の内、約173億円にものぼります。
%にすれば、占める割合は0.47%に過ぎません。
しかし!
その0.47%の人達の為に、本当に生活保護が必要な人が支援を受けることができないという事になるんです。
不正受給の内訳は、大まかには下記のようになります。
- 稼働収入の無申告。
- 稼働収入の過少申告。
- 年金の無申告。
- 保護開始月の不正受給。
- 働けるのに働けないと嘘をついて生活保護を受ける。
これらの不正受給であるか否かの確認は今の所、担当職員による関係機関への照会・調査・通報による方法しかありません。
しかし、実際には職員・ケースワーカーは調査権限はほぼ皆無であり、関係機関の協力を仰ぐしかありません。
先に述べたように、日頃の激務の中で疲弊している状態のところにさらに不正受給の対応にまで至れば、職員・ケースワーカー達の我慢も限界に来る事は多いにあり得ますよね。
実は、この不正受給が、いろいろなところに悪影響を招いているんです。
不正受給による悪影響
先にも述べましたが『不正受給』については、市民レベルでの様々な悪い噂が絶えません。
不正受給の実例:(医療に係るケース)
- 生活保護者が頻繁に病院に通う。:医療費はすべて税金で支払われる。
- 病院は言われるままに、薬を多めに出す。:病院側は、とりっぱぐれがない。
- 生活保護者が、その薬を転売する。:稼働収入にしてしまう。
- 県外の病院に、新幹線で通院している。:医療に関わる経費としても支給される。
不正受給の実例:(生活面)
- ベンツやBMWに乗っている。
- 子どもは私立学校に通っている。
- 家族で海外旅行にも行ってる。
こうした事を見聞きした市民からは、当然のごとく『不正受給を突き止めろ』との指摘の声があがるでしょうね。
その結果、下記のような悪影響を及ぼしかねません。
- 担当職員は、市民の要求と実際にできることの狭間で苦しみが増す。
- 本当に生活保護を必要としている家庭への生活保護が支給が難しくなる。
今、担当職員・ケースワーカーの仕事は2倍3倍のペースで仕事が増えています。
しかし、人員はほとんど変わらないという状況にあります。
また、経済状況の悪化・高齢化によりさらに、生活保護を必要とする受給者は増加の傾向にあります。
社会保障の中で、生活保護は最も大きな問題にもなっています。
しかし、国政においても解決策があまりない状態なんです。
むしろ触れてはいけない『パンドラの箱』になっていると言われています。
そのため生活保護の問題は、一向に解決されていないのが現状です。
不正受給防止と支援の質向上の必要性

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生活保護は今後、社会保障の一つとして大きく増大化していく事は間違いないでしょう!
今回、報道された小田原市の件は氷山の一角に過ぎないとも言えます。
では、生活保護について今後、どのような抜本的対策を立てていけば良いのでしょうか?
国・自治体の制度改革・法整備から着手すべきでは?
今、この現状をどのように打破していけばよいのでしょうか?
まずは国としての抜本的な制度の対策を、立てざる負えないのではないでしょうか?
考えられる今後の制度的な対策:
- 生活保護の国庫負担を増やし、自治体の負担を軽減する。
- 生活保護に至る前のセーフテイネット(年金・住宅など)を充実する。
- 担当職員・ケースワーカーの担当世帯数を減らす。
- 金銭給付とケースワークの業務を分ける。
- 人権意識と専門性を高め、受給者の自立支援を強化する。
- ベーシックインカム(最低生活保障)の実現を模索する。
- 生活保護部署への人員の増加。
- 生活保護部署への、社会福祉主事・社会福祉士の配置。
- 年金改革を行う際に、生活保護改革も併せて行う。
例えば年金について、支給年齢引き上げ・支給額の引き下げ等の対応を行ったとしても
- 現在は、年金額よりも生活保護費の方が高い構造にある。
- 改革等により生活できなくなった人たちが一斉に生活保護に流れてくる。
上記のような流れになってくる事も当然考えられます。
また、社会福祉主事・社会福祉士の配置による不正受給の防止強化も今後必要になるでしょう。
今後は、国・自治体が主体となって最後の砦である生活保護に、たどりつく前のこのような制度的な対策が必要になると思いませんか?
まとめ

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世間では、生活保護を受けている家庭に対して
- 『働かず怠けている人の甘えを許せない。』
- 『税金で養われている恩を忘れている。』
などの心ない偏見・バッシングも根強くあります。
やむにやまれぬ状況から、生活保護制度を利用しているのですが心ない『不正受給』の現実により世間の誤解・偏見を恐れたり、恥ずかしいなどの肩身の狭い思いを強いられている人もいます。
また、担当職員・ケースワーカーの置かれた過酷な状況に加えて『不正受給』の問題が、大きく圧し掛かっているのも現実です。
その結果が、小田原市での事件でしょうね!
小田原市での生活保護の実情は、全国の自治体で実際に起こっている事であるとも言えます。
小田原市の事件は、どんな理由があるにせよ受給者の人権やプライバシーを踏みにじる行為だった事は間違いありません。
今後、小田原市のような事件が起きないようにするためには、国・自治体の意識の改革も必要かもしれませんね。
最後の砦である福祉行政であればこそ、受給者の人権に配慮しつつ使命感に支えられた義務・責任を果すべきではないでしょう!
とにかく大事な事は、今考えられる制度的な対策を、一つ一つ、国・自治体が主体となって確実に行っていく事ではないでしょうか?
このくらいしないと報われない人の方が沢山いると思う。もっと堂々としてもいいのにと思った。税金の無駄遣い