10月の未明にとある住職の方が難行に挑みました。
その内容というのは、天台宗の比叡山延暦寺に伝わる、荒行『千日回峰行』です。
その不屈の精神力を盛った人物というのが善住院の住職、釜堀浩元さん。
この方が最後の難行、9日間の『堂入り』を無事に終えたのです。
この荒行は
- 飲まず
- 食わず
- 眠らず
の状態で、真言を唱え続けるという、人間の身体の限界を突き詰めた修行です。
戦後13人目で、平成19年以来8年ぶりとのことである。
釜堀さんは、生理学的に9日間の
- 『絶水』(飲まず)
- 『絶食』(食わず)
- 『絶眠』(眠らず)
に耐えられるように、数年間をかけて修行し極限環境に適応した身体にした後、山中のお堂に籠もったという。
ここでは、人間の身体の限界に挑んだ釜堀浩元さんにならい、生物の生理学的な面から『絶水』『絶食』『絶眠』の限界について見ていきましょう。
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【絶水】人間にの1日に必要な水は?

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人間の体重のおよそ70%は水です。
体重70kgの人なら、約50リットルの水が体内にあるのです。
その構成は、
- 約3分の2が細胞内液にあり
- 4分の1が細胞間液
- 残りの12分の1が血漿の中にある。
人間は水なしでは6日間以上、生きられないのです。
成人なら1日に2000〜2500mlの水を摂取しなければならない。
体中の水は、血液として体内を駆けめぐっていたり、細胞間を行き来したり、内臓や骨を作ったりして、常に動いています。
また、体内を動いているだけでなく、さまざまな方法で体外に出てもいるのです。
私たちは、息を吐くときに、肺から常に水分を出しています。
肺や気道は常に湿っていて、この水分は呼吸によって、1日に約400mlも失われています。
また、汗をかくことでも水分が失われます。
汗をかく量は周辺環境などによって大きく変動し、例えば、1時間に1500mlもの汗をかく場合もある。
さらに、尿や便の排出においても、健康な人の尿からは約1200ml、便からは約100mlの水分が排出されます。
つまり、合計すると1日に2300mlもの水が体外に排出されていることになるのです。
一方、水分の摂取はどうしているか?
人間は食事によって1日に約600mlの水を補っていまる。
また、体内で食べものを分解しエネルギーに変えるときの化学反応によって水分が生成される。
これを『代謝水』または『燃焼水』といいますが、この水が1日に200ml。
これに加えて1日に1500mlの水を飲めば、失われた水を回収することができることになります。
ただし、汗をかいた場合はさらに多くの水分を補う必要があります。
絶食しても水さえあれば1ヵ月以上生き延びられた人もいますが、水が1滴もなければ、たいていは1週間と生きられません。
体内で生成した老廃物を排泄しなければならない不可避尿は1日約500ml。
随意尿と合わせると1日約1200〜1500mlの尿を排泄することになります。
つまり、その分の水を摂取しないと人間は生きていけないのです。
人間はどれだけ絶食できるか?

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一方、人間の基礎代謝量は体重のキログラム値の25〜30倍、すなわち、体重60kgの男性なら1500~1800kcalです。
人間は日々の活動のエネルギー源として、肝臓と筋肉にグリコーゲン(ブドウ糖)を蓄えていますが、これは絶食後、約半日ですべて血糖(グルコース)となり全身で使い果たされます。
グリコーゲンを使い果たした結果、血中のグルコースが低下すると、肝臓内の脂肪がエネルギー源に変化し血流中に流出してしまうのです。
飢餓状態がさらに進むと、体脂肪や皮下脂肪など肝臓以外の脂肪が血流に乗って肝臓へと運ばれ、これもまた肝臓でエネルギー源となります。
これにより人間は、理論上は水分の補給さえあれば、絶食状態で2〜3ヶ月間は生存が可能であり、この限界を越えれば餓死に至ることになります。
冒頭に記したように、比叡山延暦寺で行われる千日回峰行においては、
9日間にわたって断食・断水・断眠をしながら、真言を唱え続ける『堂入り』と呼ばれる荒行が行われます。
生還しても平均して15kgは体重が落ちるといわれています。
ユダヤ教の断食は、食べ物と水などの飲み物を完全に断ち、食べ物の匂いをかいだり、薬を飲んだり、歯を磨くことさえも禁止されています。
断食は年に6回行われ、そのうち2回は男女ともに日没から次の日没まで丸一日、断食が行われる。
それ以外の4回は、日の出から日没まで断食が行われ、病気や弱っていて断食が困難な女性は免除されます。
公認の断眠記録は264時間

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米国の睡眠研究者であるレヒトシャッフェンらは、1980年代から90年代にかけて特殊な装置でラットを長期間、断眠する多数の動物実験を行いました。
結果は明白、不運なラットはすべて死んでしまいました。
ちなみに、このレヒトシャッフェンは睡眠ステージ(深度1〜4=レム睡眠)の脳波判定法を開発したことでも有名です。
断眠開始直後は食事の摂取量が増えて活動量(エネルギー消費量)も増加し、見かけ上は元気に見えた。
しかし、これは一時的で、断眠を続けると体重や活動性はしだいに減少して行ったのです。
また免疫機能も徐々に低下し、微生物による感染が目立つようになりました。
絶眠ラットは、全て2週間足らずで死んでしまったのです。
死因は敗血症だったらしいのです。
『らしい』と書いたのは、断眠による死の直接的な原因は確定していないためです。
死亡したラットを解剖しても、臓器などに死因となる大きなダメージは見つからなかったんです。
その代わり、断眠ラットでは免疫力低下のほかにも、体温低下や副腎皮質ホルモン(ストレスホルモン)が大量に分泌されるなどさまざまな変化が生じていました。
これらすべてが死につながるリスクであり、また免疫力を低下させる要因でもある。
人間の場合はどれくらい眠らずにいられるのでしょうか?
現在の公式記録は、アメリカの17歳の高校生ランディ・ガードナーさんが1964年に作った264時間です。
これより長い断眠記録もあるようだが、ランディ青年の挑戦には睡眠研究で有名なスタンフォード大学のウィリアム・デメント教授が立ち会っており、信憑性が高いとされています。
断眠を続けた末路
断眠を続けた11日間、ランディ青年の身に何が起こったか?
- 最初の2日間は眠気と倦怠感
- 4日目には自分が有名プロスポーツ選手であるという誇大妄想
- 6日目には幻覚
- 9日目には視力低下や被害妄想
- 最終日あたりには極度の記憶障害などが生じた
しかし、身体面(首から下)には大きな問題が生じなかったという。
11日間の断眠を達成した後、ランディ青年は15時間ほど爆睡した後に自然に覚醒し、精神面を含め後遺症を残さなかったそうだ。
人間以外の動物は?

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オーストラリアの科学者は、イリエワニは、脅威を察知するために片方の目を開けたまま眠ることができることが分かったと2015年10月23日述べています。
追加の研究によって、脳の半分だけを眠らせる能力を持っていることが明らかになる可能性が高いといえる。
海の哺乳動物は、生まれてから死ぬまで、海水は飲まない。
彼らは、餌の魚類に含まれている水分や代謝水の水を再利用して生命を維持しています。
また、イルカのように、数秒程度の半球睡眠(大脳半球ずつ交互に眠ること)を繰り返して取るため、絶眠(寝ないで)して泳ぎ続けることが可能なような進化をしている。
さらに、冬眠する動物は、数ヶ月間、絶水、絶食できまる。
渡り鳥は、数日間
- 絶水
- 絶食
- 絶眠
こうして大陸を移動します。
ニュージランドに棲息しているムカシトカゲは、1週間以上も絶水、絶食、絶眠して餌の昆虫のハエなどが飛んで来るのをひたすら待っています。
クマムシのように、数十年も絶水、絶食、絶眠して生き続けることのできる動物もいるのですよ。
『絶水』『絶食』『絶眠』の先には何があるのだろうか!?
生物にはさまざまな環境に適用するための生理的なスイッチが存在しする。
だとすれば人間はどうか?
さまざまな文化に見られる断食や絶食の文化は何のためにあるのか?
人間の身体の限界に挑んだ、飲まず・食わず・眠らずの9日間の修行『堂入り』を終えた、善住院の住職、釜堀浩元さんは何か悟るもの、もしくは、見えたものが在ったのでしょうか?
そのあたりは、本人しか分らないことであるが、ただひとつ言えるのは、その答えを求めるとしたら、並々ならぬ覚悟と、忍耐、甚大なる労力と時間が必要になると言えるでしょう。
人間は3日眠らないと死んでしまうと聞いたことがあります。私は1日の中で睡眠時間は大切だと実感しています。疲れがとれますね。