自分の子供がインフルエンザにかかり、呼んでも反応しない、けいれんしている、理解できないことを言っている…
これらの症状が見られたら、『インフルエンザ脳症』の可能性が高いです。
でも、「インフルエンザだから内科に行けばいいの?」「脳って付くくらいだから、神経内科でしょ?」と、どの科に行けばよいのか迷ってしまうでしょう。
今回は『インフルエンザ脳症になったら、どの科に行けば良いのか、そしてその治療法』について説明します。
また、インフルエンザ脳症の症状についても紹介するので、参考にして頂き早めに医療機関を受診しましょう。
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インフルエンザ脳症とは

季節性インフルエンザでは確認されているだけでも年間100~200人が発症しています。
そのうち1~2割は亡くなり、3~4割には知的障害やてんかん、四肢麻痺などの後遺症が出ます。
- インフルエンザウィルスに感染すると、ウィルスを排除しようとして白血球が動員されます。
- 白血球がウィルスを攻撃すると、白血球からは『サイトカイン』といわれる種々の化学物質が放出されます。
- 本来、サイトカインは人体の細胞に作用して、細胞の機能を調節するため重要な役割を担っています。
- しかし、白血球から過剰にサイトカインが放出され、アレルギーと同じ反応を起こすことが、インフルエンザ脳症の原因になっていることが分かってきました『サイトカインストーム』
- サイトカインストームを起こす原因は不明ですが、『ウィルスの量、体調、体質』などが関係していると推測されています。
- サイトカインストームを起こすと、脳では血管に作用し、血液の水分を漏出させ、脳のむくみ(脳浮腫)を起こします。
- 『脳浮腫』が起こると脳の圧が高まり、やがて脳は逃げ場を求めて延髄を圧迫するようになります(脳ヘルニア)。
- 『脳ヘルニア』が起こると、意識障害が起こり、呼吸が停止し、死に至ります。
アスピリンなどの解熱剤の多くは、血管から水分の透過性を亢進させるため、脳浮腫を助長し、脳症を起こりやすくすることが分かってきました。
『インフルエンザでは解熱剤は慎重にしないといけません。』
脳浮腫は短時間に進行するために、数時間のうちに状態が悪化することがあります。
脳浮腫の初期症状は、
- 頭痛
- おう吐
です。
頭痛とおう吐が激しいときには、脳症の始まりではないかと疑う必要があります。
難しいインフルエンザ脳症の見極め方

脳症のおもな初期症状は、
- けいれん
- 意識障害
- 異常な言動
の三つです。
ただ、脳症以外でも高熱のためにけいれんを起こすことがあります。
これは熱性けいれんと呼ばれ、後遺症などの心配もありません。
急に部屋を走り回ったり、うわごとを言ったりするなどの異常な言動も、熱が高いときには起きやすく、脳症との見分けは難しいです。
インフルエンザ脳症で子どもを亡くした親らでつくるの調査では、視線が合うか、意志の疎通がとれるかを確認する、『とくに目の様子に注意を』と呼びかけています。
眠り続けるように見えても、意識障害を起こしている場合もあるので注意が必要です。
専門家は、けいれんや意識状態を医師以外の人が見極めるのは難しいです。
少しでも気になれば、まずかかりつけの小児科医に連絡をして下さいと話しています。
一方、高い熱だけであわてないようにすることも大切です。
脳症と熱の高さは必ずしも関係はないといわれています。
意識がはっきりとして、水分がとれており、呼吸が正常なら、極端な高熱でない限り、首やわきの下を冷やすなどして家庭で対応することができます。
インフルエンザ脳症かもと思ったら…何科にかかればいい?

冒頭でも述べたように、インフルエンザにかかり、呼んでも反応しない、けいれんしている、理解できないことを言っている。
そんな時、かかるべき科は『神経内科あるいは脳神経外科』です。
これら2つの科は名前のとおり、脳神経の病気を主に扱います。
もちろん、インフルエンザと診断してもらった内科の先生に相談しても構いません。
しかし、インフルエンザ脳症と他の病気を鑑別し、専門的な治療を得意とするのはこの2つの科です。
ですから、インフルエンザ後に、上記のような症状が出たら、神経内科あるいは脳神経外科のある病院を紹介してもらいましょう。
インフルエンザ脳症で行う検査3つの種類

インフルエンザ脳症に対して行う検査は、
- 迅速抗原検査(インフルエンザ診断キット)
- 神経学的検査
- 頭部CT検査
病院で行われるのは主にこの3つの検査です。
迅速抗原検査はインフルエンザに感染しているのかを見る検査で、インフルエンザ脳症と診断する上で必ず必要な情報になります。
そして、インフルエンザ脳症と診断するために、神経学的検査と頭部CT検査を行います。
これら2つの検査でインフルエンザ脳症が疑われる検査結果が出れば、インフルエンザ脳症に対する治療が始まります。
インフルエンザ脳症3つの治療

インフルエンザ脳症の治療は大きく分けて、
- 支持療法
- 特異的治療
- 特殊治療
といった3つの治療方法があります。
ここでは、その3つの治療方法について説明します。
1.支持療法
インフルエンザ脳症では全身状態の管理が重要で、後の特異的治療の効果に影響を与えます。
支持療法では、
- 心臓や肺の機能を評価し、安定化させる。
- けいれんに対して、ジアゼパムなどの抗けいれん薬を処方する。
- アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛剤を用いて体温管理をする。
- 頭蓋内の圧力を抑えるため、D-マンニトールを処方する。
- より高次な医療が必要な場合、患者さんを適切な医療器関へ搬送する。
これら5つの支持療法はインフルエンザ脳症の治療に欠かすことができません。
また、前述のとおり、支持療法は後の特異的治療と呼ばれる治療に対して大きな影響を与えます。
2.特異的治療
特異的治療は血液中にあるサイトカインという物質を少なくするための治療です。
特異的治療には
- タミフルなどの抗ウイルス薬
- ステロイドパルス療法
- γ–グロブリン大量療法
という3つの治療方法があります。
この3つの特異的治療がインフルエンザ脳症の治療の柱となります。
3.特殊治療
この特殊治療は特異的治療が効かなかった場合の最終兵器のようなものです。
特殊治療には
- 脳低体温療法
- 血漿交換療法
- シクロスポリン療法
- アンチトロンビンⅢ大量療法
があります。
しかし、これらの治療方法には問題点が2つあります。
- 1つ目は、あくまでインフルエンザ脳症に効果があると推測されているだけで、効果があると証明されていません。
- 2つ目はどの治療方法も3次・高次医療機関でしか扱っていないため、搬送が必要になるということです。
インフルエンザ脳症には市販の解熱剤を使ってもいい?
インフルエンザの高熱でうなされている姿を見ると、解熱剤で少しでも楽にしてあげたいと思いますね。
しかし、解熱剤の種類によっては、インフルエンザ脳症を重症化させてしまう危険性があります。
インフルエンザ脳症時は、小児科ではアセトアミノフェン系の解熱剤が処方されますが、
- アスピリン
- ジクロフェナク
- メフェナム酸
は禁忌とされています。
市販薬でもアセトアミノフェン系のものはありますが、自己判断で使用する前に、まずは医師に相談することが大切です。
インフルエンザ脳症に後遺症はある?

インフルエンザ脳症で死亡する子供の数は年々減少しており、現在は10%以下まで低下しています。
しかし、脳に直接影響を与える病気なので、後遺症が出る可能性が高いんです。
約20%には後遺症が出るといわれ、
- 運動麻痺や嚥下障害
- 視覚・聴覚の障害などの身体障害
- 精神遅滞や知能低下
- てんかんなどの精神障害
などがみられます。
こうした後遺症はリハビリを通じてある程度回復することはありますが、完全に回復できるわけではないので後遺症が出るような状態にならないように注意することが大切です。
インフルエンザ脳症は予防できる?
『インフルエンザ脳症の予防は、まずインフルエンザにかからないことです。』
日頃から手洗い・うがいの徹底や、インフルエンザが流行している時期は人混みを避けるようにましょう。
また、予防接種を受けておくとたとえかかったとしても重症化を防ぎ、インフルエンザ脳症を発症するリスクを下げることができます。
インフルエンザ脳症の発生率が高い1~5歳くらいまでの間はインフルエンザの予防接種をしっかり受けて日頃の予防に努めましょう。
まとめ

『インフルエンザ脳症』はその発見が遅くなったり、治療が遅くなったりすると、後遺症が残りうる恐ろしい病気です。
今回はインフルエンザ脳症の症状、受診すべき科、予防方法を紹介しました。
まずは自分の子どもがインフルエンザにかかったとき、よく子どもの様子を観察してください。
そして、インフルエンザ脳症ではないかと思ったら、すぐに病院へ連絡してください。
『1秒でも早い治療が子どもたちの未来を大きく左右するかもしれません。』
「あれ?いつもと違うな?」と感じたら、早めの受診をオススメします。
私も見知らぬ土地でインフルエンザ香港A型に掛かってしまったことがあります。2年経っても肺に陰りがあるのを、レントゲン検査で分かりました。