ノロウイルス感染症、これを一言でいうと、『嘔吐としつこい下痢』が特徴です。
例年、秋から冬に流行する感染症ですが、新型ウイルスの登場も懸念されています。
新しい遺伝子型のウイルスが検出され、これまでの迅速キット診断で検出されない(検査で陰性となる)ケースがあります。
今回は急激な胃腸症状を引き起こすノロウイルスについて感染経路から対処方法まで紹介します。
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ノロウイルス感染症とは…

ノロウイルスとは、今から約50年前にアメリカで検出・同定された、『感染性の胃腸炎原因ウイルス』です。
これは、いくつかの遺伝子型が報告されています。
症状はご存じのとおり、食中毒のような『急激な胃腸症状(吐き気・嘔吐・下痢・腹痛)』がみられます。
また、発熱は、この胃腸症状が出現した翌日に認めることがありますが、1-2日で改善されることがあります。
全ての経過は2~3日で自然に治癒していきます。
ノロウイルスの感染力はインフルエンザ同様に強く、また短時間のうちに発症します。
ウイルスの感染から症状が発症するまでの潜伏期間は、24~48時間と短時間です。
感染力はインフルエンザとほぼ同じくらいであり、症状が発症した方がいる場合には適切な感染対策を行う必要があります。
ノロウイルスの感染経路

ノロウイルスの感染経路は、口からうつる『経口感染』です。
60℃以上になると、ウイルスは活性がなくなります。
流行時期は1年を通して起こりますが、特に11月から翌年の1月にピークを迎える傾向があります。
感染経路を下記に記載します。
- 患者さんなどが排泄したノロウイルスが川・海に流れて、そこで、牡蠣を代表とする二枚貝の魚介類に蓄積・濃縮されます。それを生での接種など、加熱不良の状態で食べて感染するケースがあります。
- 感染者の汚染された手で調理したものを食べて感染するケースがあります。
- 患者さんの便・嘔吐物の処理が不十分であること、また、便・嘔吐物を処理する人にウイルスが付着して感染を引き起こすケースがあります。
ノロウイルス感染症の予防…適切な5つの知識とポイント

①手を洗う
現在は、ノロウイルスに有効なワクチンは開発されておりません
ノロウイルスの感染予防は、『適切な手洗い・加熱消毒』を行うことです。
②手洗いはていねいに…
手洗いは、手指に付着しているウイルスを減らす有効な手段です。
帰宅後、トイレの後、そして食事前や調理を行う前に、流水・石鹸により手洗いを行う事が重要です。
手洗い前のチェックとしては、時計・指輪などのアクセサリーやつけ爪(アートネイル)などを外すことが前提です。
というのも、汚れが残りやすいところは
- 爪の間(第2・3・4指)
- 指の間と指先(第2・3・4指)
- 手のしわ
- 手首
という報告がされております。
具体的な手の洗い方としては
- 手のひら
- 手の甲
- 指先・ツメ
- 指の間
- 親指
- 手首
でよいかと思われます。
流水で汚れを落とし、石鹸は泡立てて十分にこすってください。
(石鹸ではノロウイルスを減少させる効果がありませんが、石鹸で手を洗うことでウイルスを落とす効果があります)
手を拭くタオルは共用しないで、ペーパータオルを使用あるいは、個人のタオルを使用してください。
水道の蛇口は洗う前の手で触れていますので、手と同時に洗うか、タオルなどで蛇口を締めてください。
速乾性の消毒剤による消毒、ウェットティッシュを用いた清拭はあまり効果が期待できないとされております。
③食品の加熱は十分に…
ノロウイルスは60℃以上では活性がなくなりますので、加熱処理はウイルス感染予防に有効は方法です。
加熱を必要とする食品は、中までよく火を通して食べてください。
特に牡蠣は、『中心部を85℃以上で60秒以上の加熱』をおすすめします。
大粒の牡蠣は、加熱が不良となる可能性が高いです。
④食器・調理器具などの消毒
まな板、食器、ふきんなどは使用後にすぐに洗剤で洗い、十分な煮沸消毒が有効です。
また、家庭では、『次亜塩素酸ナトリウム消毒液』を浸して拭くと効果的です。
⑤嘔吐物の処理
症状が回復した方でも、数日間はノロウイルスを排泄しております。
吐物・下痢便は、手袋・マスクを使用して、可能であればエプロンやガウンなどを併用して処理されることをおすすめします。
また、飛沫感染のリスクを避けるほか、消毒液から発生する塩素ガスを吸い込まないようにするため、換気を十分にしてください。
換気の際は、対角線の2か所を開けて空気の通り道を作ります。
ノロウイルス感染症を発症したら…その感染予防

ノロウイルスには現在、インフルエンザウイルスに対する薬のような特効薬(抗ウイルス薬)はありません。
そのため、症状に合わせた対応が必要です。
その中でも『水分補給』が重要です。
特に乳幼児や高齢者では脱水症状・頻回の嘔吐による体力消耗が懸念されます。
また、嘔吐による誤嚥のリスクもあります。
嘔吐が落ち着くまでは、口から水分を取らないでください。
その後は経口補水液(OS-1など)を、ティースプーン1杯程度の少量から、だんだん量を増やしてください。
また、医療機関受診のうえ整腸剤を内服してください。
回復後も感染予防目的で、トイレ後の手洗いを十分にして、感染を広げないように配慮をお願いします。
遺伝子変異によって生まれた新型とは

最近だと2006年と2012年末のノロウイルス大流行が記憶に新しいですね。
2012年のときは2006年時のものとは違う、新型ノロウイルスだったのです。
ノロウイルスは遺伝子の違いによって40種類以上存在しており、これらが変異することがあるのです。
2006年に流行したものは他の種類に比べて変異しやすく、2012年に流行したノロウイルスもこの2006年に流行したものから変異したものでした。
この新型ノロウイルスはオーストラリアで初めて発見されたためシドニー2012と名付けられました。
日本でこの新型は2012年1月に確認されています。
シドニー2012は2006年に流行したものに比べて、『消化器官』に取り付きやすく変化したのが特徴です。
より少量の数で感染症を引き起こし、その潜伏時間も10数時間~数日と短くなっています。
健康な大人だと免疫力が高いため、感染症にかからなかったり、風邪程度で済むことが多いのですが、新型はそんな大人相手でも胃腸炎を引き起こす傾向があると指摘されています。
つまり、非常に感染力が高まっており、より危険な型に進化したと言えます。
新型遺伝子を持つノロウイルス感染症の流行

ノロウイルスは変化が多い『RNAウイルス』であり、5つのグループに分かれています。
そのうち、主にG-I.4が例年、確認されています。
2015年に報告された食中毒症例や、小児の感染性胃腸炎症例から、これまでの検出例が少ないノロウイルスのうちG-II.17が検出されており、新たな遺伝子型での流行が確認されました。
この新型遺伝子のウイルスは、これまでのものと比べて、『迅速診断キットによる検出感度が低い』という特徴があります。
そのため、集団感染が発生した際に、ノロウイルス感染と判断される感染予防対策が遅れる可能性が示唆されているのです
一方、明らかな重症例の増加などの報告はないそうです。
まとめ

ノロウイルス感染症は、『嘔吐・下痢・発熱』が特徴です。
加熱不良である牡蠣などの二枚貝の摂取による食中毒、調理器具や吐物・便からの感染の2つの主な経路があります。
食事での十分な加熱のほか、手指衛生・環境管理・次亜塩素酸ナトリウムの使用が感染防止に有用です。
発症したら、嘔吐が落ち着いてから、少量ずつ経口補水液(水分・塩分)で脱水予防に努めましょう。
ノロウィルスはとても感染力が強いということを聞いたことがあります。トイレで何枚も紙を重ねても浸透して手に感染するそうです。消毒液も有効でしょうね。