冬になり本格的なインフルエンザ流行シーズンになりましたね。
うがい・手洗い・マスクの着用など、予防もしっかり行っていきたい季節です。
感染者とはできるだけ接触を避けたいところですが、感染した人と同居する家族などは接触しないわけにはいきません。
実は、インフルエンザへの感染をどうしても防ぎたい場合、『インフルエンザ治療薬による予防投与』を自費で行うことができます。
しかし、インフルエンザ薬は抗ウイルス薬なので、治療薬耐性のインフルエンザウイルスが出ることをできるだけ防ぐために、予防投与には条件があります。
今回は
- インフルエンザ治療薬による予防投与とは
- 治療薬による予防投与の条件
- 治療薬による予防投与の用法・用量
- 治療薬による予防投与による副作用
など詳しく紹介します。
お好きなところからどうぞ
インフルエンザ治療薬による予防投与って何?

インフルエンザの患者さんに接触した場合に、特に感染のリスクが高い人に対してインフルエンザ治療薬を予防投与量で使用することがあります。
抗インフルエンザ薬をあらかじめ投与しておけば、インフルエンザウイルスの増殖を抑えることができるため、結果として予防につなげることができるのです。
予防投与の場合、『患者さんと接触してから36時間以内』に投与した場合に、最も予防効果を発揮するとされています。
そのため、早めの投与が重要となります。
『インフルエンザウイルスのA型・B型ともに、予防効果が認められています。』
インフルエンザ薬で感染予防できるのはなぜ?

抗インフルエンザ薬には、インフルエンザウイルスの増殖を抑える作用があるため、あらかじめ薬を使用することで、結果的にインフルエンザを予防することにつながります。
インフルエンザ感染者と接触しインフルエンザに感染する可能性が高い状況やインフルエンザに感染したらどうしても困る状況といったイザという時に、予防投与が可能です。
ただし、抗インフルエンザ薬を濫用することで、薬に耐性を持つインフルエンザウイルスが氾濫することを防ぐために、予防投与にはいくつかの条件や注意があります。
インフルエンザ治療薬で予防投与が認められる6つのパターン

特に感染のリスクが高い人に対して、予防的に抗インフルエンザウイルス薬投与が認められています。
対象となるのは原則として、インフルエンザを発症している患者と一緒に生活している下記の人たちです。
- 高齢者(65歳以上)
- 慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者
- 代謝性疾患患者(糖尿病等)
- 腎機能障害患者
日本感染症学会提言2012インフルエンザ病院内感染対策の考え方について(高齢者施設を含めて)では、予防投与を早期から積極的に行って被害を最小限にしようというものとしています。
高齢者施設では、
- インフルエンザ患者が2~3日以内に2人以上発生
- 迅速診断でインフルエンザと診断される患者が1人でも発生した場合
施設や入所者の実情に応じて同意取得を心がけたうえで、フロア全体における抗インフルエンザ薬の予防投与の開始を前向きに考慮するとされています。
高齢者は基礎疾患などもあり、インフルエンザを発症した際に重症化しやすいため、このような提言がなされているのです。
抗インフルエンザ薬の予防投与の用法・用量

A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の予防として
- タミフル
- リレンザ
- イナビル
の3種類が承認されています。
タミフルとリレンザは1日1回で10日間使用することになっており、イナビルも2日間使用し、10日効果が持続するとされています。
<タミフル>
- 治療では:1日2回5日間
- 予防では:1日1回10日間 ※1回量は同じ
■タミフルカプセル75
通常、成人は1回1カプセル(オセルタミビルとして75mg)を1日1回、7〜10日間服用します。
体重37.5kg以上のお子さんの場合、1回1カプセル(オセルタミビルとして75mg)を1日1回、10日間服用します。
■タミフルドライシロップ3%
通常、成人は1回2.5g(オセルタミビルとして75mg)を1日1回、7〜10日間、水でかきまぜて服用します。
お子さんの場合は1回66.7mg/kg(オセルタミビルとして2mg/kg)を1日1回、10日間、水でかきまぜて服用します。
ただし、1回最高用量はオセルタミビルとして75mgとされています。
必ず指示された服用方法に従ってください。
腎機能が低下した方へは腎機能別投与量設定があります。
10歳以上の未成年の患者さんは、合併症、既往歴などからハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則としてこの薬を服用することはできません。
インフルエンザ患者に接触後、『48時間以内』に使用を開始してください。
インフルエンザに対する予防効果は、この薬を連続して使用している期間のみ生じます。
<リレンザ>
- 治療では:1日2回5日間
- 予防では:1日1回10日間 ※1回量は同じで2ブリスター(2吸入)
通常、成人および小児は1回2ブリスター(ザナミビルとして10mg)を1日1回10日間、専用の吸入器を用いて吸入します。
必ず指示された使用方法に従ってください。
インフルエンザ患者に接触後『36時間以内』に使用を開始してください。
タミフル同様、インフルエンザに対する予防効果は、この薬を連続して使用している期間のみ持続します。
乳製品に対してアレルギー症状が出たことのある患者さんは、服用のときに医師とよく相談してください。
専用の吸入器で1回で2吸入し、1日2回5日間継続する必要があります。
吸入の際は、『直前に息吐き→深く薬を吸入→5~10秒息を止める』という流れがポイントになります。
<イナビル>
- 治療では:1日1回2キット(10歳以上)、1キット(10歳未満)1日間
- 予防では:1日1回1キット2日間(10歳以上のみ)
通常、成人および10歳以上のお子さんは1容器を、1日1回、2日間吸入します。
イナビルは1容器あたりラニナミビルオクタン酸エステルを20mg含有しており、薬剤が2ヵ所に分割して充填されています。
必ず両サイドを吸入してください。
インフルエンザ患者に接触後『48時間以内』に使用を開始してください。
服用開始から10日以降のインフルエンザに対する予防効果は確認されていません。
乳製品に対して過敏症の既往歴のある患者さんへは、慎重投与となっています。
※年齢別まとめ
- 小児~10歳 :タミフル、リレンザ(未就学児の場合、服用が難しいと考えます)
- 10歳以上 :リレンザ、イナビル
- 成人 :タミフル、リレンザ、イナビル
※リレンザは、イナビルと異なり1回で終了せず、操作を10日間繰り返す必要があります。
未就学児などへもタミフルの異常行動の恐れから出されるケースがありましたが、うまく吸えないなどの理由で服用できない場合があります。
インフルエンザの予防効果の日数は?

タミフル・リレンザの予防投与による効果は、基本的に薬を投与していている間の『10日程度』です。
イナビルは2日間の投与ですが、タミフル・リレンザと同様に10日程度の予防効果があるとされています。
そのため、抗インフルエンザ薬を予防に使う時は「ここぞ!」という時に使うことが大事です。
絶対にインフルエンザにかかるわけには行かない日や期間に合わせて予防投与することを覚えておきましょう。
インフルエンザの予防投与は全額自己負担

インフルエンザの予防目的で薬を処方してもらう場合は、家族にインフルエンザ患者がいたとしても保険適用外になってしまうため、『全額自己負担』になります。
また、薬の値段だけでなく、病院の診察料や調剤技術料、薬学管理料などがかかるためその総合計額を負担することになります。
ワクチンとの違いは?

インフルエンザ予防の基本は、あくまでもワクチンです。
ワクチンはウイルスに対する免疫力を高めることで発症を予防し、重症化することをおさえます。
1回の接種(小児は2回)によりシーズンを通じた効果が期待されます。
一方、タミフルはインフルエンザウイルスの増殖を抑制し、発症を予防します。
タミフルの予防は、服用している間のみ効果を示します。
予防投与は原則として、ハイリスクな方のみ行われます。
接触したら薬でなんとかしよう、などと考えず、流行シーズンに入る前に予防接種を受けましょう。
予防投与中に発症したら?

予防服用中にインフルエンザのような症状(38度以上の高熱、寒気、関節痛など)が発現した場合は、速やかに受診しましょう。
既に感染が成立していたために、予防用量ではウイルスの増殖が抑えられていなかったことなどが推察されます。
予防と治療とでは、薬の使い方が異なります。速やかに医師の診断を受け、指示に従ってください。
副作用はあるの?

オセルタミビルリン酸塩 タミフル
- 動悸
- 血圧低下
- 蕁麻疹
- 血便
- 腹痛など
ザナミビル水和物 リレンザ
- 下痢
- 発疹
- 吐き気
- 動悸
- 呼吸困難など
ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 イナビル
- 下痢
- 悪心
- 胃腸炎
- 蕁麻疹など
ペラミビル ラピアクタ
- 下痢
- 嘔吐
- 白血球減少
- 蛋白尿など
アマンタジン塩酸塩 シンメトレル
- ショック症状
- 心不全
- 肝機能障害など
リレンザ、イナビルに関しては、乳糖を製剤に利用しているため、乳製品にアレルギーがある場合は『慎重投与』となっています。
医師とよく相談したうえで服用の可否を決めると良いでしょう。
妊娠中・授乳中は予防投与が可能?

タミフル・リレンザ・イナビルの添付文書によると、予防に限らず治療においても、
- 妊娠中の方には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること
- 授乳中の方には投与する場合には授乳を避けさせること
という記載があります。
しかし近年厚生労働省をはじめ、日本産婦人科医会などの各学会から妊娠中や授乳中においても、
- 胎児や乳児に重大な影響を及ぼす可能性はない。
- 治療上の有益性が危険性を上回ると判断される。
という発表がされています。
妊娠中や授乳中の方は、必要に応じてタミフル・リレンザ・イナビルなどの抗インフルエンザ薬の予防投与をかかりつけ医に相談してみてください。
まとめ

今回は、『抗インフルエンザ薬の予防投与』についてご紹介いたしました。
インフルエンザウイルス感染症の予防の基本はワクチンによる予防であり、薬の予防使用はワクチンによる予防に置き換わるものではありません。
予防接種をしていても感染発症する可能性はありますが、重症化しにくいといわれています。
また、普段からマスクをするなどの予防も大切です。
感染しないよう、日頃から予防に努めましょう。
抗インフルエンザ薬の予防投与は、いざという時に使う方法ではありますが、予防投与があることを知り、ご予定やご希望に合わせていざという時は病院で相談してみてください。
抗インフルエンザ薬の予防投与を行うときは、以下のことを理解しておきましょう。
- 用法用量は医師・薬剤師の指示を必ず守りましょう。
- 副作用も存在する医薬品です。いつもと違う「おかしいな」と感じたら早めに受診してください。
- 症状に合った薬が適正に処方され、また正しく使用するかぎり、重い副作用はめったに起こりません。
- 使用が決まった際はまずは安心して処方通り決められたとおりにご使用ください。
予防投与薬はたった10日間の効果期間だそうですが、うまく利用すれば役に立ちそうですね。例えばどうしてもインフルエンザ患者に向かわなければいけないときとか…